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ブランドとしてのレコードレーベル考

2022.11.07

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1.はじめに

音楽に何かしらの関心がある人であれば、お気に入りのミュージシャンが「〇〇というレコードレーベルに所属している」といった話を聞いたことがあるであろうし、ミュージシャンの新曲のCMなどでレコードレーベルと思しき名称が呼称されることを聞いたこともあるであろう(例えば、「avex trax」などと呼称されるCMを見たことがある人は多いのではないかと思う。)。

私もそうした一人であり、そういった経験から、なんとなく、ぼんやりと、レコードレーベルという概念を理解しているつもりになっていたが、ある時、知人との音楽の話題の中でレコードレーベルに話が及んだ際に、「あれ、レーベルとレコード会社って何が違うのだ?」、「そもそも、レーベルってなんだ?」となり、レコードレーベルについて何も理解していないことがわかった。

一方で、レコードレーベルと思しき特定の名称を耳にすると、特定のミュージシャンが思い浮かぶことがある。例えば、先の「avex trax」という名称を聞けば「安室奈美恵」が思い浮かぶといった具合である。このような現象が生じるのは、レコードレーベルがある特有のイメージを生み出していることに起因していると考えられるのであって、そのような特有のイメージが生じるのは、レコードレーベルがブランドとして機能しているからであろうと考えられる。

そこで、種々の調査をもとに、ブランドとしての価値に目配りしながらレコードレーベルを理解して備忘録的なものを残そうと考えて、本稿に着手した次第である。

 

2.レコードレーベルとは何か

まず、レコードレーベルの概念を整理しておきたい。レコードレーベルとは、その名のとおり、レコードの盤面の中央部分に貼られた「レコードのレーベル(ラベル)」のことである。レコードレーベルには、レコード会社名、ミュージシャン名、アルバムタイトルあるいは曲目等といったレコードの属性に関する種々の情報が記載されている。

このレコードのラベルという意味が転じて、レコードレーベルは、レコード会社が取り扱う音楽のジャンルごと、リスナー(ターゲット)層ごと等に分類されたレコード会社のひとつの部門を指し示す概念としても用いられるようになった。むしろ現在では、こちらの意味で用いられることのほうが多いかもしれない。本稿でも、特に断らない場合は、こちらの意味でのレコードレーベルを対象として話を進めることにしたい。

レコード会社のひとつの部門を指し示す概念といっても、なかなか分かりにくいかもしれないので、身近なファッションで考えてみたい。例えばアパレルブランドのバーバリーが以前、ファッションのテイスト(雰囲気)ごとに分類した「ブラックレーベル」や「ブルーレーベル」といった部門を取り揃えてブランド展開を行っていたのは、まさしくその名前のとおりレーベル(部門)ごとのブランド展開であり、このことを想起してもらえれば、レコードレーベルもイメージしやすいかもしれない。

ミュージシャンがレコードデビューする際は、一般的に、レコードレーベルと契約してレコードレーベルに所属することになる。したがって、ミュージシャンは、レコードの制作(原盤の制作と読み替えて差し支えない。)に際して、レコードレーベルからの詳細な指示を仰ぐことになると考えられる。例えば、音源(原盤)の企画や制作は、レコードレーベルの具体的な指示のもとで行われることになる。

 

3.ブランドとして機能するレコードレーベル

ここで、まず、そもそもブランドとは何であるのかについて共通認識を構築しておきたい。ブランドについて、法的な観点から説明するとすれば商標法あるいは不正競争防止法で説明することが可能であるが、本稿では、法的な説明から離れた無形の社会的実体としてのブランドを考えることとする。

最初に、ブランドという概念を最もシンプルに考えてみたい。ブランドという概念に接したときに、例えばアパレルの分野であれば “ルイ・ヴィトン”、“エルメス”、“アルマーニ”等といったいわゆる「ハイブランド」を想起しがちではなかろうか(少なくとも私はそうである。)。したがって、まずは、ブランドという概念には何かしら「高級」とか「良質」といったニュアンスが含まれているという認識を構築しておく。

次に、社会的な実体としてのブランドの概念を考える。先に挙げた“ルイ・ヴィトン”、“エルメス”、“アルマーニ”はいずれも、衣類、バッグ、靴といった同種のアイテムのファッション商品を展開しているところ、例えば同じバッグでも“ルイ・ヴィトン”のバッグと、“エルメス”のバッグと、“アルマーニ”のバッグとは、いずれも違うバッグであるが、これらのバッグの購入を検討している消費者は、それぞれのバッグを明確に区別したうえでいずれのバッグを購入するのかを検討している。

すなわち、“ルイ・ヴィトン”、“エルメス”、“アルマーニ”といったブランドは、一の商品と他の商品とを区別する標識として機能していると考えられる。このように、ブランドが一の商品と他の商品とを区別する標識として機能する理由として考えられる根拠としては、それぞれのブランドを象るネーミング、ロゴあるいは図形等といった「目印」が異なることはもちろんとして、それぞれの目印のもとに信用が蓄積されているからであると考えられる。目印のもとに蓄積された信用とは、端的には、消費者が上記のような標識としてのブランドに接した場合に、そのブランドに対して持つ、例えば「ハイセンスだ」、「品質がよい」、「高価である」等といったイメージのことである。すなわち、その目印が獲得した評判のことといってもよいであろう。

したがって、ブランドとは、「高級」とか「良質」といったニュアンスを含む概念であって、形式的には目印であり、実質的にはその目印のもとに蓄積された信用であるという認識を構築しておく。

以上をふまえて、レコードレーベルがブランドとして機能している状態について検討する。例えば、先に触れた「avex trax」と聞けば「安室奈美恵」が思い浮かぶという事象は、「avex trax」というレコードレーベルが、「安室奈美恵」を典型例とした若者から絶大な支持を受けているアーティストを多く擁しているレーベルであるという印象をリスナーに持たれているという事実に起因するものである。すなわち、他のレコードレーベルと区別する標識として機能する「avex trax」という目印のもとには、時代の最先端をゆく人気のアーティストが所属するレコードレーベルであるという信用(評判)が蓄積しているのである。したがって、目印としてのレコードレーベルのもとには信用が蓄積しているから、レコードレーベルがブランドとしての機能を果たすのである。

その一方で、例えばあるアーティストが「このレーベルに所属したい!」といった願望を特定のレコードレーベルに持つという事象は、その特定のレコードレーベルが、そのアーティストが志向する音楽のジャンルで特有の地位を有している、あるいはそのアーティストの音楽性と近しい音楽性をもつアーティストが多く所属している等といった印象をアーティストにもたれているという事実に起因するものである。すなわち、他のレコードレーベルと区別する標識として機能する特定のレコードレーベルの目印のもとには、他のレコードレーベルにはない個性や特異性等があるという信用(評判)が蓄積しているのである。したがって、この場合にも、目印としての特定のレコードレーベルのもとには信用が蓄積しているから、レコードレーベルがブランドとしての機能を果たすのである。

このように、レコードレーベルがブランドとして機能する反射効として、レコードレーベルには、固定された印象が良くも悪くもつきまとうことになる。例えば、モータウンといえば、ソウルやR&Bといった黒人音楽のレーベルでダイアナ・ロス、シュープリームス、ジャクソン5などが所属している等といったイメージがつきまとい、アトランティック・レコードといえば、レッド・ツェッペリンやクリームが所属したロック色の強いレーベルであり(もっとも、アトランティックについては、私より上の世代の人はソウルやR&Bのイメージを持つかもしれない。)、アップル・レコードといえば、ビートルズが作ったレーベルである等といったイメージである。このような固定的なイメージがつきまとうのはもちろん悪いことではなく、ブランド機能の発揮という観点からはむしろ好ましいものではある一方で、例えば、特定のイメージにとらわれずに多様なアーティストを送り出したいというレコードレーベルの意向がある場合には、ネガティブに作用する場合もあるかもしれない。

 

4.デッカ・レコード

最後に、私の好きなレコードレーベルをひとつ紹介したい。デッカ・レコードは、イギリスの大手レコード会社であり、レコード会社の名称である「デッカ・レコード」そのものがレコードレーベルの名称としても使用された(以下「デッカ」という。)。

デッカは、ローリング・ストーンズ、スモール・フェイセズ、ザ・フー等といった、ブリティッシュ・インベイジョンあるいはスウィンギング・ロンドンを彩った、ロックの創成期に活躍したミュージシャンが多数所属した名レーベルであり、私のような古めのロックの愛好家にとってはとてもなじみが深く、胸に響くレコードレーベルである(音楽リスナーにこのような思いを想起させるのも、デッカというレコードレーベルのブランドとしての機能の発揮であろう。)。

デッカは、アメリカにも現地法人を設立しており、このデッカ・アメリカがアメリカ国内で「DECCA」を複数、商標登録していた(例えば下記の“71537163”)ことから、イギリスのデッカは、アメリカでのレコードの販売の際に「DECCA」の商標を使用することができなかった。したがって、イギリスのデッカが、所属するミュージシャンのレコードをアメリカで販売する場合は、ロンドンレコードというレーベル名で販売していた。例えばローリング・ストーンズは、イギリスではデッカがレコードを販売し、アメリカではロンドンレコードがレコードを販売した。ちなみに、デビューアルバムのタイトルは、イギリスのデッカ版は“The Rolling Stones”であったが、アメリカのロンドンレコード版は“England’s Newest Hit Makers”であった。レーベルの違いが、アルバムタイトルにも影響を及ぼしたようである。

 

「DECCA」の商標情報

 

なお、デッカの系列下でサブレーベルとして立ち上げられたレーベルに、デラム・レコード(以下「デラム」という。)というレーベルが存在する。デラムは、当時は先進的な音楽性であると評されたミュージシャンが主に所属していた興味深いレーベルであるが、その詳細に立ち入ると本稿では横道に逸れてしまうので、ここではその存在を指摘するにとどめる。

ところで、レコード会社としてのデッカといえば、デビュー前のビートルズの音源がマネージャーのブライアン・エプスタインによって持ち込まれてオーディションを行った結果、ギターの音が陳腐である等の理由で、ビートルズをオーディションで落としたというエピソードが非常に有名である。このエピソードだけで、デッカのブランド的価値が向上したといったら言い過ぎかもしれないが、ビートルズを落とすことを決めたデッカの部長のディック・ロウは、ビートルズ旋風が巻き起こった後、ビートルズを蹴った男として「名声」を得ることになるのだから、あながち過言ではないかもしれない。ちなみに、ディック・ロウは、ビートルズのジョージ・ハリスンからの提案を受けて、ローリング・ストーンズをデッカからデビューさせたのであるから、ビートルズは逃したものの、ディック・ロウが得た「名声」がブランド的な価値(「あのビートルズを落とした男」という評判)を発揮した結果、思わぬ幸運がデッカにもたらされたと考えることもできそうである。すなわち、このようなインパクトの強いエピソードは、良かれ悪しかれ、ブランドの価値に何らかの影響を及ぼすのではないかと考える。

 

<参考文献>

・フリー百科事典『ウィキペディア』「レコードレーベル」

・ブライアン・サウソール ルパート・ペリー 著 上西園誠 訳(2010)「ノーザン・ソングス 誰がビートルズの林檎をかじったのか」(シンコーミュージック)

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