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ロックで感じる「パクリ」 −盗用とオマージュとインスパイアの境界をゆるく体感する−

2022.12.13

目次

1.「パクリ」とはなにか

小説、漫画、アニメ、映画、演劇、写真、絵画、音楽等といったあらゆる文化的創作物は、創作者の個性(オリジナリティ)が表現された著作物として著作権法で保護される可能性があります。

創作者の個性が活かされた表現は、創作者の脳内にふつふつと湧き上がってきたり、ある時に突然、天啓のように降ってきたりするのかもしれませんが、そのような表現であっても、必ずしもその創作者が生み出した唯一無二の表現ばかりではなく、多かれ少なかれ、知らず知らずのうちに、先行する創作物の影響下におかれる場合もあると考えられます。むしろ、先行する創作物の情報を数多く持っている人のほうが、優れた創作物を作り出せる可能性があるのかもしれません。

ある創作物に先行創作物の影響が感じられる場合、平たくいえば先行創作物に似ていると感じられる場合、その創作物は先行創作物の「パクリ」であるといわれることがあります。「パクリ」という言葉が創作物の類似性という観点で用いられる場合には、一般的には「盗用」とか「剽窃」といったネガティブな意味合いで把握されることも多いと考えられますが、藤本貴之氏の著書である「パクリの技法」(オーム社)では、「パクリ」という言葉は、創作物の類似性という観点において、多義的に分類できると指摘されています。

同書によれば、「パクリ」の意味が、「1.一般用語・感覚としてのパクリ」、「2.無条件に違法なパクリ」、「3.許可や手続が必要なパクリ」及び「4.相互理解/業界内ルールの遵守が必要なパクリ」の4つに分類されています。この分類に従えば、「パクリ」が必ずしもネガティブな意味ばかりで捉えられるものではないことがわかります。「1.一般用語・感覚としてのパクリ」は「模倣、複製」、「2.無条件に違法なパクリ」は「盗作、盗用、剽窃」、「3.許可や手続が必要なパクリ」は「転載、引用、サンプリング、参考、リメイク」、「4.相互理解/業界内ルールの遵守が必要なパクリ」は「二次創作、インスパイア、オマージュ、パロディ、デフォルメ」という概念をそれぞれ包含すると説明されています。

「パクリ」の分類(上掲「パクリの技法」P.19に基づいて作図)

ところで、ロックの世界でも、「盗用」の意味において「パクった」とか「パクられた」とかいった話が聞こえてくることがあります。このとき、先行楽曲の創作者の許諾があるうえで、先行楽曲をリメイク(カバー)したり、先行楽曲の一部をサンプリングして取り入れたりするのであれば問題はありませんが、問題となりやすいのは、線引きが難しい、違法な「パクリ」と相互理解/業界内ルールで行われる「パクリ」との間の判断ではないかと考えられます。特に、「盗用」なのか「オマージュ」なのか、あるいは「インスパイア」なのか、実際上の判断は非常に難しいものであろうと考えられます。

ここで、上掲の「パクリの技法」を参照しますと、「盗用」は“他人のオリジナルから一部を許可なく、あるいは出典等を明記することなく流用・借用し、あたかも自分のアイデアや創造であるかのように公表すること、もの”、「オマージュ」は“先行者(先行創作物)への尊敬あるいは敬意をもっているがゆえにできあがった、それに似せたもの、強く影響を受けていることがみてとれるもの”、「インスパイア」は“先行する何か、憧れる何か、理想とする何か、尊敬する何か、自らの創造力を喚起する何か…などからインスピレーション(霊感)を受けたもの”と意味づけることができます。

私はロックが好きで、似ているなと感じる楽曲を発見すると、ついつい聴き比べをしながら「ここはこのフレーズをとったな」とか「ここはあそこから持ってきたな」とか、細部をいじくりまわしています(テレビ番組「タモリ倶楽部」の人気コーナー「空耳アワー」に発表できるような、いわゆる“空耳っている”曲を見つけたときの喜びとも近いのかもしれません。)。

そこで、本稿では、「パクリ」の意味合いを多義的に把握したうえで、かねてから私が気になっている「パクリ」曲とその元ネタといわれる曲とを対比(本稿ではこれを「対曲」といいます。)する形式でいくつか列挙して、ロックにおける盗用とオマージュとインスパイアとの境界をゆるく体感することを目指しています。あくまでも体感することが目的であって、盗用なのかオマージュなのかインスパイアなのかの白黒をつけることは目的としていないことを、予めご承知おきください。

 

2.体感しよう!「パクリ」感覚

では、本編です。以下、<「パクリ」曲 vs 元ネタ曲>のフォーマットで対曲します。

 

2.1 ZARD『負けないで』(1993)vsダリル・ホール『Dreamtime』(1986)

最初の対曲は、ZARDの名曲『負けないで』と、ホール&オーツで有名なダリル・ホールのソロアルバムからのヒット曲『Dreamtime』です。両曲のボーカルが入るまでのイントロを聴き比べてください。

ZARD『負けないで』

 

 

ダリル・ホール『Dreamtime』

『負けないで』は、『Dreamtime』の冒頭の印象的なギターのリフとそれに続くイントロを取り入れながら、キャッチーで特徴的なサビ“負けないで~♪”で強いオリジナリティを確立しており、ご存知のとおり大ヒットを記録しました。

 

2.2 佐野元春『Young Bloods』(1985)vsスタイル・カウンシル『Shout to the top』(1984)

お次の対曲は大御所の佐野元春の『Young Bloods』と、ザ・ジャムのポール・ウェラーが作ったユニットであるスタイル・カウンシルの大ヒット曲『Shout to the top』です。キャッチーなイントロからAメロBメロを経たサビ手前までが聴きモノです。

佐野元春『Young Bloods』

 

スタイル・カウンシル『Shout to the top』

両曲ともに、80年代シティ・ポップ風なおしゃれな印象ですね。さすが佐野元春、原曲を歌い倒して自分のものにしている感があります。

 

2.3 サンハウス『レモンティー』(1975)vsザ・ヤードバーズ『Train kept a rollin’』(1966)

続いて、鮎川誠が率いたサンハウスの『レモンティー』と、ザ・ヤードバーズの『Train kept a rollin’』とを聴き比べます。この対曲はもう、のっけからいっちゃってください!

サンハウス『レモンティー』

 

 

ザ・ヤードバーズ『Train kept a rollin’』

うーん、これは…。鮎川誠もバレバレ、みえみえでやっているとしか思えない…。実に計算高い(?)ですね(笑)。鮎川誠は、サンハウスの解散後に結成したシーナ&ロケッツでも、『レモンティー』をセルフカバーしています。

ちなみに、ギターソロは、『Train kept a rollin’』のライブバージョンではおなじみになっていた、ジミー・ペイジ(後のレッド・ツェッペリンのギタリスト)の手クセで構成されたギターソロに触発されていますね。以下のライブバージョンの(02:15~)あたりから聴くことができます。

ザ・ヤードバーズ『Train kept a rollin’』ライブ

なお、『レモンティー』の少し卑猥な歌詞は、レッド・ツェッペリンの『The Lemon Song』の歌詞のセクシーな一節“Squeeze me, babe, ‘till the juice runs down my leg(中略)The way you squeeze my lemon, I’m gonna fall right outta bed,”に触発されたに違いないと思っています。

 

2.4 B’z『Bad Communication』(1989)vsレッド・ツェッペリン『Trampled Under Foot』(1975)

4番目の対曲は、ボーカルとギターの2人の人気ユニットB’zの『Bad Communication』と、あらゆるリフを発明しまくったハードロックの始祖であるレッド・ツェッペリンのリズミカルな『Trampled Under Foot』です。

B’z『Bad Communication』

 

 

レッド・ツェッペリン『Trampled Under Foot』

『Bad Communication』は、『Trampled Under Foot』のリフのシンコペーション(リズムパターン)を巧みに変えながら取り入れて、印象的でオリジナリティあふれる楽曲に仕立て上げられています。ただ、Aメロのバックで流れている『Trampled Under Foot』そのままと思しきリフはご愛嬌でしょうか(笑)。ツェッペリンが好きなんだろうなあということは、よく伝わってきますね。

 

2.5 レッド・ツェッペリン『Dazed and Confused』(1969)vsジェイク・ホームズ『Dazed and Confused』(1967)

続いての対曲は、レッド・ツェッペリンの『Dazed and Confused』と、アメリカのサイケなフォークシンガーのジェイク・ホームズの『Dazed and Confused』です。

 

レッド・ツェッペリン『Dazed and Confused』

 

 

ジェイク・ホームズ『Dazed and Confused』

これは、もうイントロで「やっちまったな」といったところでしょうか。しかも、楽曲のクレジットはちゃっかり、ギタリストのジミー・ペイジの名義になっています。この曲を聴いたジェイクは、数年後に「めんどうくさい、奴にやっちまえ」と言ったといわれていますが、2010年になって、ジミー・ペイジを相手取って著作権侵害訴訟を提起したようです。これを受けて、ジミー・ペイジは、楽曲のクレジットを“Jimmy Page Inspired by Jake Holms”と表記するようになりました。

 

2.6 レッド・ツェッペリン『Stairway to Heaven(邦題:天国への階段)』(1971)vsスピリット『Taurus』(1967)

お次の対曲は、レッド・ツェッペリンの超名曲『Stairway to Heaven』とジャズロックバンドのスピリットの『Taurus』です。パクリパクられ騒動に、またもレッド・ツェッペリンの登場です。

 

レッド・ツェッペリン『Stairway to Heaven』

 

 

スピリット『Taurus』

この対曲に関しては、米国において、スピリット側からレッド・ツェッペリン側が著作権侵害であるとして訴訟を提起されましたが、最終的には、著作権侵害ではないと判断されて決着がついています。実際、『Stairway to Heaven』の冒頭の2小節あるいは3小節のコード進行が『Taurus』のイントロのコード進行と同じだけであって、両曲のギターのアルペジオによるメロディも異なっていますし、その他の部分も似ている要素はないと考えられます。個人的には、盗用でもオマージュでもインスパイアでもない、コード進行の単なる近似であると考えています。

 

2.7 フリッパーズ・ギター『ドルフィン・ソング』(1991)vsビーチ・ボーイズ『God Only Knows』(1966)

続いて、渋谷系として人気を博したフリッパーズ・ギターの『ドルフィン・ソング』と、ビーチ・ボーイズの『God Only Knows』です。両曲とも、イントロのメロディを聴き比べてみてください。

 

フリッパーズ・ギター『ドルフィン・ソング』

 

 

ビーチ・ボーイズ『God Only Knows』

ううむ、私には同じメロディにしか聴こえないですね(笑)。実はこの『ドルフィン・ソング』は、イントロ以降の他の部分でも、他の曲と対曲させることができるのです。

 

2.8 フリッパーズ・ギター『ドルフィン・ソング』(1991)vsバッファロー・スプリングフィールド『Broken Allow』(1967)

『ドルフィン・ソング』の(02:01~)あたりと、『Broken Allow』の(00:33~)あたりとを聴き比べてみてください。

フリッパーズ・ギター『ドルフィン・ソング』(02:01~あたり)

 

 

バッファロー・スプリングフィールド『Broken Allow』(00:33~あたり)

いかがでしょうか。

『ドルフィン・ソング』の元ネタとなっている(と思われる)『Broken Allow』も前項2.7の『God Only Knows』も、いずれもソフトロックの名曲として知られています。『ドルフィン・ソング』を聴くと、フリッパーズ・ギターのこれらの曲に対する愛情は、十分に伝わってくると思います。

 

2.9 フリッパーズ・ギター『世界塔よ永遠に』(1991)vsウォーム・サウンズ『Nite Is A Coming』(1967)

もう一発、フリッパーズ・ギターです。彼らの『世界塔よ永遠に』と、わずか3曲ばかりを残して解散した英国の激レアでマニアックなウォーム・サウンズの『Nite Is A Coming』の対曲です。両曲とも、1番だけでも通して聴いてもらえればと思います。

 

フリッパーズ・ギター『世界塔よ永遠に』

 

 

ウォーム・サウンズ『Nite Is A Coming』(1967)

なるほど。これは実に完成度の高い「完コピ」ですね(笑)。非常にマニアックなバンドだから、ここまでやってしまっても問題ないだろう(誰も気づかないだろう)とでも思ったのでしょうか。メロディ、ボーカルライン、コーラスその他の細部に至るまで、忠実に「再現」しています。

この「完コピ」のクオリティは別論として、インターネットがまだ普及していない1990年代の初頭において、20年以上も前に英国という遠く離れた地で短期間だけ活動していた、非常にマニアックなアンダーグラウンドシーンにいたバンドの激レアな曲を知っていたフリッパーズ・ギターの博識ぶりは、実はものすごいことだと思っています。当時、フリッパーズはこの曲をどうやって知ったのでしょうか。とても気になります。

 

2.10 ジョージ・ハリスン『My Sweet Lord』(1970)vsシフォンズ『He’s so fine』(1963)

最後の対曲は、ジョージ・ハリスンの『My Sweet Lord』と、シフォンズの『He’s so fine』です。裁判上で著作権侵害であると判断されてしまった、有名な事例です。

 

ジョージ・ハリスン『My Sweet Lord』

 

シフォンズ『He’s so fine』

確かに、AメロからBメロへの流れは似ているといえるかもしれません。ただ、ジョージは、ゴスペル・ソングの『Oh Happy Day』から影響を受けたのであって『He’s so fine』は頭になかった、と主張していたようであり、その意味では『My Sweet Lord』のネタを『He’s so fine』に求めた(依拠した)ものではなかったかもしれません。もっとも、『He’s so fine』は全米1位になった曲なので、無意識のうちに似たメロディになってしまった可能性はあります(無意識の依拠でも著作権侵害になるのかという論点もあるようですが、本稿では踏み込みません。)。

 

3.雑感

以上、有名なものからちょっとマイナーなものまで含めて、10の事例を列挙しました。この中には、仮に訴訟になったら「これはあぶなっかしいな」と思えるものもあると思います。わが国では、楽曲の類似性の判断は、「メロディ」、「ハーモニー」、「リズム」及び「ミュージカル・フォーム」の4つの要素を対比して判断するとされています(最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁「ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー」事件)。本稿では「パクリ」をゆるく体感する目的に鑑みて、このような検討には及んでいません(というか私にはできません。)が、本稿を書きながら、きちんとした音楽理論を身につけてこのような検討を行うことも興味深いことだなと思えました。

「パクリ」曲の元ネタ曲を探していく私の「特定班」としての活動は、今後も続いていきますし、その活動記録は、機会があったらまたどこかで発表したいと思います。

※本記事は、知財系Advent Calendar 2022 に参加しています。

<参考文献>

・藤本貴之 著(2019)「パクリの技法」(オーム社)

・安藤和宏 著(2018)「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編(第5版)」(リットーミュージック)

・スティーヴン・デイヴィス 著 中江昌彦 訳(1986)「レッド・ツェッペリン物語」(CBS・ソニー出版)

 

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